大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(う)1610号 判決

被告人 吉田稔一 外一名

〔抄 録〕

一 本件ピクリン酸について

関係各証拠によると、

(一) 本件ピクリン酸は、昭和五一年一〇月一三日午後一一時ころから翌一四日午前七時五八分ころまでに実施された東京都目黒区祐天寺二丁目二〇番四号山本荘内高村清純方の捜索差押の際、同人方六畳間の天袋内から、本件塩素酸カリウム等やその他の証拠品とともに一括保管の状態で発見押収されたものであるところ、右押収当時における本件ピクリン酸の状態はポリ袋に入れたものを、更に弁当箱様のプラスチック製容器一個およびプラスチック製かん二個に分割収納されたもので、その総量は、約二三〇一・三グラムにも上る多量のものであったうえ、その水分含有率は、〇・一ないし〇・四パーセントと極めてよく乾燥した純度の高いものであったこと

(二) ところで、ピクリン酸は、一般的には、雷管を用いれば、裸薬でも爆発し、しかも、その量が多ければ、一部飛散することを考慮に入れても、人を殺傷し、建物を破壊する威力を発揮し得るものであるところ、本件ピクリン酸の総量は、これだけでも十分に右にいう多量の部類に属するものであること、更にピクリン酸の威力を他の爆薬と比較すると、装てん密度一・六三の松ダイナマイトの爆速は、秒速約六、六四〇メートル、同じ装てん密度の桜ダイナマイトのそれは、秒速約五、八一〇メートルであるのに対し、ピクリン酸は、装てん密度一・六四の場合の爆速が秒速約七、〇六九メートル、装てん密度一・〇〇の場合のそれが秒速約五、一二〇ないし五、二二〇メートルを示すように、右各ダイナマイトの威力を上回るか、これに匹敵する程度のものであること

(三) 本件ピクリン酸のうち、一五・一グラムを耐圧性の乏しいアルミ箔円筒に入れ、特に圧縮せず、かつ同円筒の上部を開放にして、六号電気雷管を用いて爆発させたところ、一立方センチメートル当り約七八〇キログラムの圧力を示したこと、また、本件ピクリン酸のうち、約一〇〇グラムをポリエチレン袋に封入し、これを厚さ約五ミリメートルの鉄板上に置き、六号電気雷管を用いて爆発させたところ、右鉄板に深さ約五ないし六センチメートルの半球状のくぼみを生じたこと

以上の事実を認めることができる。

右事実によれば、本件ピクリン酸は、その爆発作用そのものによって公共の安全をみだし、または人の身体財産を害するに足りる破壊力を有するものと認められるところ、爆発物取締罰則にいう爆発物とは、理化学上の爆発現象を惹起するような不安定な平衡状態において、薬品その他の資料が結合した物件であって、その爆発作用そのものによって公共の安全をみだしまたは人の身体財産を害するに足りる破壊力を有するものであることを要し、かつ、それをもって足り、雷管その他の起爆装置が装備または準備されていることを要するものではない(最高裁昭和五〇年四月一八日第二小法廷判決・刑集二九巻四号一四八頁参照)と解されるから、本件ピクリン酸は、発見押収された前記(一)の状態のままで、すでに、右にいう爆発物にあたるものというべきである。

二 本件塩素酸カリウム等について

関係各証拠によると、

(一) 本件塩素酸カリウム等は、前記一の(一)で説示したとおり、爆発物たる本件ピクリン酸とともに、一括保管の状態で発見押収されたものであること

(二) ところで、塩素酸カリウムは、起爆薬に添加する酸化薬として、ニトロセルローズは、右起爆薬を加熱する発火薬として、鉛筆補助軸は、これら起爆薬を充填する雷管管体として、ニクロム線は、これを雷管に差し込む電気発熱線として、乾電池は、右発熱線の電源として、電池ホルダーは、右電源の固定装置として、リード線とスイッチは、右発熱線と電源を接続する電気回路として、それぞれ使用し得るものであること

(三) 昭和四六年一一月一七日警視庁目黒警察署五本木派出所に仕掛けられた時限式手製爆弾および同年同月二四日大塚警察署管内の外務省研修所に仕掛けられた時限式手製爆弾は、いずれも、鉄製パイプまたはコカコーラかんにピクリン酸等の爆薬を装填し、右のような器具材料等を使用した構造のものであったこと

以上の事実を認めることができる。

してみると、本件塩素酸カリウム等は、まさしく、爆発物取締罰則三条にいう「爆発物の使用に供すべき器具」にあたるものというべきである。(なお、本件電池二〇個のうちには、電圧の低下したものも含まれているが、これらの電池といえども、他の新品電池との組み合わせや、抵抗値の異なる発熱体との組み合わせいかんによっては、なお、被加熱薬品の発火が可能であると認められるから、これら電圧の低下した電池といえども、「爆発物の使用に供すべき器具」というべきである。)

(鬼塚 櫛淵 門馬)

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